わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

“透明人間”に徹してきた古賀さん、“牛の仕事”を経験した佐川さん

佐川光晴『主夫になろうよ!』(左右社)を読みながら、東京大学教養学部×博報堂ブランドデザイン『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』(アスキー新書)を、パラパラめくってみた。 雑誌の企画で、作家の佐川光晴さんと、小学校の先生をしている鈴木…

「他者の無いところに人生なんて存在しないんだって」と幸夫はいう。

西川美和著『永い言い訳』(文藝春秋社)。そのラストにいたるまでの起伏のすごいこと。 「キヌガサ・サチオ」という男が不倫で悩むハナシなのかと思ったら、まぁ全然違っていた。 名前も、広島東洋カープの衣笠祥雄とは、声にだせば同じだが、サチオは「幸夫…

「スーツアクター」というお仕事をルポ

宣伝です。すみません、無粋です。 映画の「イン・ザ・ヒーロー」(唐沢寿明さん主演、武正晴さん監督)をきっかけに、 こんなインタビュールポをはじめました。 「パッチギ!」「フラガール」などを世に出したシネカノンの元代表で、見事復活を果たされた李鳳…

ゴトウさんとジョン・メイとハルナさんと

『おみおくりの作法』(ウベルト・パゾリーニ監督) 映画『おみおくりの作法』 http://bitters.co.jp/omiokuri/ 主人公のジョン・メイは、ロンドン郊外の地区の民生係として働く44歳の男。長いことアパートでひとり暮らしをしていて、親しい友人はいないらし…

恥ずかしかながら…

発売中の「婦人公論」2/24号に、ダンスプロデューサーの夏まゆみさんのルポを書きました。モーニング娘。やAKB48の振り付けをされてきたひとです。 三ヶ月くらいの間、「新日鉄住金エンジニアリング株式会社」での社内講演会やNHKラジオ第一「午後のまり…

消えたユニクロの同僚を訪ねていくルポ

大宮冬洋さんの『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)は、私小説ふうのノンフィクションだ。 2年ほどに前に出版された単行本。たまたま目にしたwebの読者コメント欄が賛否両論で、否のほうは昔の同僚の話を聞いただけじゃん、知…

#佐藤正午史上最強の小説!!

いろいろあって、ものを書く気力がわいてこなかったし、ひと月ほど本もほとんど手にしなかった。ようやく年明けからちびちび頁をめくっていたのは佐藤正午の『鳩の撃退法』(小学館)。上下本で、最初はささいなことをあれこれ書いていて、ちょっと村上春樹っ…

深夜の再読。

いまは時代劇作家になっている志水辰夫さんの現代小説に「いまひとたびの」という短編がある。表題作の単行本が出たのはずいぶん昔のことで、直木賞候補にもなった。短編集だと受賞は難しいといわれていた時代で、惜しいことに賞を取り逃がした。 志水さんが…

嗚呼、眉山級の傑作!!

古処誠二さんの『中尉』(角川書店)を読み終わる。 語り部の軍曹がビルマの戦地で生活を共にし、その間、目にするたび見下げ、不快以外のなにものでもなかった軍医に対する悪感情が、残りの紙幅が乏しくなるにつれ、オセロのように反転していく。 読後の深…

自殺を止めるひとを記録したノンフィクション。

昨日売りの「週刊現代」の書評欄の「書いたのは私です」で、ノンフィクションライターの中村智志さんをインタビューした記事が載りました。本は、『あなたを自殺させない 命の相談所「蜘蛛の糸」 佐藤久男の闘い』(新潮社)です。 長いタイトルですが、自殺率…

三叉路。

木戸幹夫さん(元代官山・文鳥堂書店)から、以前に書いたものに下記のコメントをいただきました。長文なので、ここに転載します。 お久しぶりです。お元気そうで何よりです。 思い出していただき書いていただきありがとうございます。嬉しいです。 こちらも図…

おしろいつながり。

白粉のにおいのする女のひとが家に大勢出入りしていたといえば、亡くなられた映画監督の森田芳光さんが思い浮かぶ。 渋谷の道玄坂のラブホテルが建ち並ぶ一角に実家があり、お昼近くになると芸妓さんが集まってくる置屋さんで、子供のころから女のひとたちに…

駅から徒歩1分の場所にたどり着かない恐怖。

このごろ目的地にたどり着くのが難しくなかった。きのうも「駅を出てすぐ」の場所に20分もかかってしまった。帰りは駅まで1分とかからなかった。 転記した地図どおりに駅を出て右に進んだ。スススッと。しかし、これが間違いだったらしい。ライブをやってい…

とうとう「後妻業」の実態が明らかに、

週刊文春のミステリーのアンケートで推した、黒川博行さんの『後妻業』(文藝春秋社)は、この事件をモデルにしていたのか!? 足がついたのは、青酸カリを使った保険金殺人容疑らしいが、結婚相談所で知り合った老人が次々と不審死をとげたというのは、小説そ…

おうどん。

「浅漬けのきゅうりに、鰹節をまぶして、お醤油をつけたのがおいしかったわぁ」 ベッドに横向きになった次姉が、子供ころにお米屋さんの友達に家で食べたものをもう一回食べてみたいという。 姉の髪はまばらで雪のように白くなっていた。 見舞いといっても、…

物書きは背中で

本日売りの「週刊朝日」に、ルポライターの鈴木大介さんのインタビュー記事が掲載されました。『最貧困女子』(幻冬舎新書)の著者インタビューで、「書いたひと」というページです。 「貧困女子」のさらに下にいる女性たちの声を聞き、こういう現実があると伝…

檀家や「ハカジチ」て?

『お寺の収支報告書』橋本英樹著(祥伝社新書) コドモのころ、ダンカという言葉を村のひとが大勢集まるたびに耳にしました。「お坊さん」「ぼんさん」「あのボウズ」といった言葉と組み合わさるものの、それが何を意味するのか、長いあいだよくわからぬままで…

老いての恋、山田太一さんの小説が漫画になった。

新井英樹『空也上人がいた』(山田太一・原作)小学館から、 山田太一さんの同名小説を漫画にしたのが本書で、新井英樹さんの作品を読むのはこれがはじめてです。 巻末の山田さんとの対談で、新井さんはご自分の絵のキャラクターは美男美女ではなくて、嫌いと…

ニセモノから本物について考える、愉しい絵本。

『ぼくのニセモノをつくるには』ヨシタケシンスケ著(ブロンズ新社)から、 絵本です。コドモもオトナも楽しめます。 ヨシタケさんはイラストレーターで、週刊文春の土屋賢二さんのエッセイで、一コマまんがを連載していて、手にしたらまずココを見ます。ちな…

こうの史代さんのインタビュー

発売から5日も経っちゃっていますが、今週発売の「週刊現代」の「人生最高の10冊」という頁で、漫画家のこうの史代さんをインタビューした記事が載っています。 選ばれたものは、作品の資料となったものが多く、佐々木雄一郎さんという写真家が原爆投下の日…

町内会ノイローゼ 「ムカデ競走」に出る人がいないと、誰が困るのか?

『“町内会”は義務ですか? コミュニティーと自由の実践』紙屋高雪著、小学館新書から、 選挙の投票率が半分に満たないどころか、有権者の三分の一あたりの低調時代に「町内会(自治会)」は、重荷ではないでしょうか。 本書は、なり手のない団地の自治会長を、…

『失職女子。』という本から、命のロープについて考えてみました。

生活保護を受給するには、まず「住所」が必要。でも、いま住んでいるアパートから退去を求められています。どうしたらいいでしょう? というように困惑しているひとが読むとすごい力になるのが、大和彩著『失職女子。 私がリストラされてから、生活保護を受…

あの「恐怖のミイラ」の主人公は、じつは、なにも考えてない刑事たちだった?!

「恐怖のミイラ」を警官隊が包囲する一場面です。 観ていて、素朴な疑問を抱きました。 半世紀ぶりに見直すと、ここまで追い詰めながら、なぜか取り逃がしてしまう。もっともらしく登場する「辣腕刑事」たちが、失策、失態を重ねる。唖然の展開のドラマです…

じつは、若者たちで「新しい村」をつくろうというノンフィクション。

『0円で空き家をもらって東京脱出!』つるけんたろう著、朝日新聞出版 東京郊外の安アパート暮らし。30歳の漫画家さんが「ゼロ」にひかれ、広島県の尾道に移住した体験を綴ったルポ漫画です。 近ごろ問題化している「空き家」の増殖をとらえたということで…

レトロ感にハマる、「恐怖のミイラ」のつづく。

今年のマイベスト・サスペンスになりそうなのが、『後妻業』黒川博行著(文藝春秋)。関西弁の笑いとともに、じわじわっと怖さがまします。 「ごさいぎょう」と読む。作者の造語なのでしょうが、妻に先立たれた資産家の家に入り込み、遺産を騙し取る話。警察が…

割引クーポンをだす妖怪ヒーローと、トイレに行けなかった「恐怖のミイラ」のこと

水木しげるが、鬼太郎をはじめとする妖怪漫画を描きはじめたころからすると、ずいぶん世の中も変わったものだと思ったのは、宮川さとしの『東京百鬼夜行①』(新潮社)を読んでのこと。 シリアスタッチの『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(新…

泥田坊とトーセンボー

こうの史代さんが4コマ漫画を描かれている『あのとき、この本』(平凡社)で、『メキメキえんぴつ』(大海赫=作・絵、ブッキング)という本が紹介されていて、表紙の絵と、紹介者の石川浩司さんの文章とで、読まずにいられなくなりました。 71人のひとが、それ…

2376分の1 ノリさんを探せ 横浜ベイスターズの最終戦、ただし二軍。

きのうは横浜ベイスターズのファームの最終戦(対ロッテ)を観に遠出しました。 京急線の「追浜」(金沢八景のもうひとつ先の駅で、おっぱま、と読む)から徒歩で15分くらいの球場に着いて、びっくり。以前、平塚の球場にいったときを上回る、スタンドには立ち見…

横浜ベイスターズの二軍の試合を見続けているひとのブログが面白い。

中村ノリ選手の去就が気になります。 そんなのにノリのこと好きだったっけ? と不思議がられたりしますが、たしかに、にわかです。 中畑監督の逆鱗にふれ、春に二軍に落とされて以来、今年は一軍出場のないまま、二軍のホームでの試合に4番スタメンで起用され…

アリは、「死」をどのように捉えているかのかというハナシなど、

アリは死んだ仲間を運びだすそうだ。エッサホッサ。観察していると、遺体を墓地みたいなところに積み上げるのだとか。 彼らの「死んだ」かどうかの識別は、におい。まだピンピンしている働きアリに、そのにおいを塗りつけてみると、エッサホッサ、みんなで暴…

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/