「わたしの神様」(樹木希林・主演)から…
樹木希林がすごい!!!
自分のことだから…、自分で責任もってやるという生き方
かんたんそうでなかなかよういでない。
「神宮希林 わたしの神様」(伏原健之・監督、東海テレビ放送制作)は、女優の樹木希林さんが、伊勢に旅するドキュメンタリー映画だ。撮影されたのは、2013年。「式年遷都」といって、二十年に一度、社を建て替え、「神様のお引越し」が行われる。それを見に行こうというハナシである。
新たに作られつつある社をはじめ、使われる檜を伐りだすところや縁の歌人を訪ねたりする、樹木さんと歩む旅の記録になっていて、伊勢神宮というものをだんだん理解する仕立てになっている。
そういえば、伊勢に行ったのは、小学校の修学旅行の一度きり。いくつも鳥居をくぐったことは覚えているものの、ワタシが記憶しているのはそれだけ。樹木さんは、鳥居の前に来ると、丁寧にお辞儀を繰り返す。一度、撮影している監督さんに話しているうち、うっかりそのままくぐってしまった。「しゃべっていたからいけないのよ」と、もとにもどってお辞儀をする。そういうこまかなシーンが面白い。
映画は、希林さんの自宅をスタッフが訪ねるところから始まる。モダンな西洋建築で、モップで床を拭きながら各部屋を案内していく。こんな仕事をしているのにとクローゼットを広げると、掛かっているのは20着くらい。別の扉をあけると、テレビもブラウン管のもの。余分なものを持たないのは徹底している。モップの雑巾部分も、着古したTシャツなんかを切って最後まで使うのだとか。いいなぁ。
面白かったのは、伊勢名物の「伊勢うどん」を食べたあと、お店の女将さんが祭りでつかう半被をお土産にもたせようとする。「お気持ちだけ、ありがたく頂戴します。私には似合わないですから」と希林さんは辞退する。半被を広げ、「こんなにいいものなのよ、着なくてもいいから飾っておきなさい」と、女将さんも譲らない。たいていなら、そこで折れて、もらうのだろうけど、樹木さんは「本当に飾りませんから。黙ってもらってしまうのがいいのだろうけど、むだにしてはいけないから」。ずっとわたしは、こういうふうにしてやってきたの、という。傍にいたお店のダンナさんは、どちらの肩ももてず困ったまま成り行きを見ている。
スリリングなシーンだが、樹木希林というひとの芯がよく出ていて、冒頭のモップを持つところから「樹木希林」の素晴らしいドキュメンタリーになっている。
樹木さんは、お宮で手を合わせるたび、「ここではお願いはしちゃダメなの。感謝をいうだけ」という。とくに伊勢神宮の神様とはそういうものらしい。説明であるとともに、樹木さんの生き方を象徴しているようにも思えた。
もうひとつ、面白かったのは、いまの家を建てる際に、昔からの井戸があり、そこを塞ぐとよくないことが起こるといわれた。当時、夫婦役で共演した三輪明宏さんに相談したところ、日本でひとりしかいない厄払いの力をもったひとを紹介してあげるといわれたという。ここからが、なんとも樹木さんらしい。
「日本にひとりしかいないというひとだと、お礼もたくさんしないといけないし、お願いしたその日に何かあったら動かせないし……」いろいろ考えて、自分が気にいってどうしても住みたいと思ったのだから心をこめて自分がお祓いをすればいい。そう決めたら、三輪さんにその後の連絡をとらなかったという。いいなぁ。これでなければ、あのロッカーのヨメはつとまらないわな。
そうそう、伊勢の鳥居が多いのは、だんだんと連れ立ってしゃべっていた人たちが自然と無言になる仕掛けでもあるらしい。