読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

ファーブルとこうの史代

【わにわに書庫】 

  観察するひとについて… 

セミのことを調べようとして、『ファーブル昆虫記③セミの歌のひみつ』(奥本大三郎訳・解説、集英社)を読んでみた。知らないことがいっぱいあった。

ファーブル昆虫記〈1〉ふしぎなスカラベ (集英社文庫)

セミにもいろんな種類があるのは知っていたけれど、シャーシャーと鳴くでっかいクマゼミが西日本に生息する、暖かい地方に限られることがまずそのひとつ。ニイニイ(ミンミン)ゼミやツクツクボウシだけでなく、日本には32種類ものセミがいること。未知のセミの多いこと。

何年も土の中で暮らし、外に出てきてからの寿命はひと月もないこと、コドモのころ「かわいそうだから殺しちゃだめよ」と言われたのは頭にはいっているものの、どうやって次の世代が育っていくのかは、本書ではじめて知った。還暦もちかいというのに、はじめて知るひとがあるとワクワクするものだ。

セミの幼虫は、土の中でトンネルを作り、木の根っこから水分を摂取して生活しているそうだ。じっと一箇所にとどまっているわけではなく、いくつも部屋をつくり、冬の寒いころはずっと深いところ、暖かくなると表面近くへと移動するらしい。

樹に張り付いているセミを捕まえようとして、ピュッとおしっこをひっかけられることがあるけれど、あの「おしっこ」も実はけっこうすごいものだ。幼虫時代はトンネルを掘る際に、土を塗り固め壁にするために役立つんだとか。

さて。ファーブルというひとは、昆虫博士と呼ばれるくらいだから、野生の狼に自分を一体化させたシートンのように小さな生物にあふれる愛情を示すひとかというと、そうじゃないというのも今回はじめて知ったこと。驚いた。

ファーブルというひとは、好奇心のつよい観察者であって、しかも感情的になることはない。

たとえば、セミの幼虫がおしっこを出し切ったら、どうなるのだろう? と疑問に思った彼は、土から這い出てきた幼虫をガラスの試験管に入れ、その上からパサパサの土をかぶせ、底から上ってくる様子を見ようとする。「ひょっとしたら、この幼虫は外に出るのにけっこう苦労するかもしれないぞ」とファーブルは思ったという。

四日後に、這い上がれずに幼虫は死でしまった。

次にはおしっこをためた幼虫で同じ実験をしてみた。10日後に出てきた。

ほかにも、セミの幼虫は美味らしいと耳にすると、ひとをかき集めて、地中から出てきたばかりの幼虫を採取する。美味かどうかはともかく、セミからしたら、たまったもんじゃないなぁ、このセンセイは(苦笑)。

ところで、タイトルにもなっている、セミはなぜ鳴くのか?

オスがメスを呼び寄せるために鳴くというのは、ほんとうかどうか。例によって、ずっと観察するわけですが、センセイの答えは「よくわからん」。

それでも、意外な発見をします。うるさいくらいの大きな鳴き声は、じつは聴こえてないからじゃないのか。証明するために、なんと大砲まで用意させるんですから、さすがセンセイです。

のちのちの研究で、まったく聴こえてないというのではなく、たとえばコウモリのように聴き取る周波数のちがいに関係しているらしいと、訳者の奥本さんは解説しています。

そうかそうか。奥本さんの視点が入ることで、より理解が深まるともに、幼虫がどれだけ死のうと「土中の幼虫の生態」を解明しようと一点集中のファーブルさんというのは、研究バカというか相当な変人だというのがわかってきます。まあセミにとっちゃ、モンスター、迷惑なストーカーでしかないでしょうけど。

 

ファーブルの本を読んでいて、本棚からひっぱり出したのが、こうの史代さんの『さんさん録』(双葉社)です。

 

さんさん録 : 1 (アクションコミックス)

妻を亡くした初老の男が、息子夫婦と同居しはじめるハナシです。妻から「参さん」と呼ばれていたのと、その妻が残した分厚い日記(生活の知恵ノート)を開き、肉じゃがを作ったりする。昨晩は、とたんに食べたくなって肉じゃがをこしらえました。サブリミナル効果というんでしょうか。

参さんが身を寄せた息子夫婦には、小さい娘がいて、無口、ポケットにカマキリの卵やまる虫をいれたりするくらい好きで、好物は「おぼろ昆布」という。変わった子なわけで、参さんもどう付き合っていいものかと思案する。

ある日、びしょびしょになりながら池でゲンゴロウをとってきて、孫娘を喜ばそうと参さんは彼女の開いた両手に、そっとおく。ほほえましいシーンなのだが、孫娘はじっと見つめ、参さんを睨みつけ、ボロボロと泣く。

「見まちがいだ!! だって池に」と参さんも取り乱す。ゲンゴロウではなく、クロゴキブリだったというオチなんですが、うつうつとしたときに読むと、気持ちが晴れるというか、なごむ。

まあ、そんなふうにして日を重ねていくうちに、参さんのそばにいつもこの孫娘がいるというあんばい。参さんと孫娘の距離が縮まっていく様子を見るのは、読者としては、どこか観察記にちかいというか。参さんも、けっこう変人ですし、孫も表情に乏しくて、あんまり子供らしくない。ヒマがあると虫を眺めている。ヘンなコだけど、そのヘンさが愛らしく思えてくるから不思議なものです。

 

不思議といえば、守る守ると、有事に自衛隊に護衛してもらわなきゃいけないアメリカの軍艦て、ダイジョウブなんだろうか?

用心棒として役立たずというか、バカにし過ぎというか、

それって、妹の背中にまわるお兄ちゃんじゃないの。と、思うのはワタシだけ? 

 

 

 

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/