わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

坂東眞砂子さんや岡圭介さんのこと

眠る魚

 

 タイのチェンマイに住み、手広く仕事をしている奥野安彦さん(元・硬派系カメラマン)のwebで、書評のようなコラムのような、「……という本の話」を連載している。

   http://www.norththai.jp/

   きのう更新したのが、坂東眞砂子さんの『眠る魚』(集英社)で、坂東さんの未完の長編について。本のハナシは、重複するので省くけれど、奥野さんとやりとりしていて、彼は、坂東さんが作家になって間もないころに僕がインタビューしたころのことをよく覚えているという。

   鎌倉あたりのコーポの二階で、二間ほどの部屋にモノは少なく、女性の部屋のイメージから程遠かった。イタリアにいっていたころの話と、部屋の飾り気のなさにギャップがあって、それからずっと彼のなかでは注目の作家の位置をしめてきたらしい。

   ぼんやりそのころの記憶が蘇りはするものの、穴ぼこで、気になって昔のファイルを家捜しして、出てきたのは黄色く変色した「小説宝石」のロングインタビューの記事。95年4月号もので、ワタシが仕事をはじめて3年め、作家さんに話を聞くのが面白くなったころのものだった。

   パソコンが勝手に文字を打ち出すとか、担当編集者が体調を悪くしたとか、身の回りで不思議なことが起こってどうのという、土着書の強いホラーがヒットしていたこともあって、夜のテレビのゲストトークみたいなことを話している。

   あと、イタリアは建築を学びにいっていて、小説を書く前には、家の間取りや村の地図を作製する。それが楽しいというハナシとか。ホラー作家といわれるけど、暴力シーンを描くのが実は苦手。怖い。でも、死ぬ間際のシーンは書いていてぞくぞくするという。たわいないハナシだが、よくしゃべっている。

   そのあと直木賞をとられて、大家になってずいぶんしてから一度インタビューしたことがあるが、そちらはどこの雑誌で何の本だったか覚えてない。最初だったからか、印象深いのは二階のコーポのほうだ。浅田次郎さんが直木賞を受賞されて間もないころで、「次はバンマサだな」と口にされていたのをインタビュー後記に書いている。そういえば、浅田さんも坂東さんも、講談社の文芸の編集者だった岡圭介さんの担当で、新刊が出るたび「こんどこんな本がでるんだけど……」と電話してきて、その声が弾んでいた。

   岡さんに教えてもらった作家さんは数多い。『照柿』の高村薫さんもそのひとりだ。当時は、AERAの現代の肖像がワタシがいちばん力を入れていた仕事で、記事が出るたびに岡さんに雑誌を送っていた。いま思えば、忙しいのにちゃんと目を通してくれ、あった際に感想をもらったりした。「でもあれは、ちょっと」とソフトにダメだしをされ、結局一度もほめられたことがなかった。急逝され、とっくになくられたトシをこえてしまった。

   ところで坂東さんのことについて、ネットで東野圭吾さんが書かれたものが載っている。

   http://renzaburo.jp/bando_memorial/

   疑問に思っていたことが、解消された。

   暴力シーンを描くのが怖いといっていた彼女が、論旨にぶれはないにしても、実際にそういう行動をとるのか。騒ぎとなり、バッシングを浴びた。当時とくに訂正措置をとろうとはしなかったことが、彼女らしいともいえるのかもしれないが、彼女を語る、いい追悼文だとおもう。

 

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/