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わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

ウラモトユウコが面白い。

【わにわに書庫】

ウラモトユウコ『椿荘101号室』①②(マッグガーデン)から

 椿荘101号室(1) (エデンコミックス) (マッグガーデンコミックス EDENシリーズ)

ウラモトユウコの『椿荘101号室』①②(マッグガーデン)は、人生初のひとり暮らしをはじめる若い女性のハナシ。同棲していた男から「別れてくれ」と土下座をされてやむなく……というのだが、同情を起させないのが、いやなことには耳を塞ぎ、自分本意にやってきた。彼氏に依存して、自立する気がゼロというキャラだからか。

そんな彼女がやむなく借りることになったのが、タワーマンションの間にひっそり建つ南京錠のアパート。下駄箱のある下宿屋さんの風情だ。

最初は好きになれない女だなぁ、もっと苦労したほうがいいよ、とツッコミを入れながら読んでいた。いっぽうで親近感が募るのも、南京錠だからかも。

築何十年の木造二階建ての「椿荘」の住人は、昭和のホームドラマにでもでてきそうなひとたち。

賄いさんというか、住人相手に、弁当屋を営んでいる磯谷オバサン。子役のタレントを雇い週末に「家族ごっこ」を続けている不倫カップル。何をしているか不明だが企業しているイケメンくん。部屋を大改造して一室まるまるゴージャスな浴室にしてレンタルしている年齢不明の美女の加納さん(リアリティに欠けるけど、そこはマンガのよさというか、こういう破天荒なアネゴがいてくれるおかげでシンミリせずにすむ)、アジアンというか、にぎやかというか、それぞれにたくましい。まわりにもまれて、ひとりだと転げ落ちるようにダメになったであろう主人公がおせっかいを焼かれたりして生活力を身につけていく、とともに読者としてこちらも応援目線になっている。スボラだけど、根はわるい子じゃないというふうに。

そういえば、タイで数泊したゲストハウスもみんなが集まるスペースをもうけた南京錠の部屋だったし、ワタシが最初にひとり暮らしをしたのは大学2年めの夏で、大阪環状線の桃谷と寺田町の間のアパートだった。下町である。

トイレは共同で、部屋には小さな流しとコンロがひとつ。コインランドや銭湯を利用するなど、初めてづくしだった。

部屋のカギは南京錠を買ってかける。頼りないものだった。というか、ドロボーに入ろうなんて気が起こりそうもない造りだった。

実家は農家で、鍵をかける習慣がなかったからカギひとつにも新鮮というか違和感があった。いちど流しのところで、コンコンと物音をたてると、隣室の住人が、ガラッと引き戸を開け、しばらくして、

「誰や! ふざけっとたらオラしょうちせんぞぉ!!」

ドスの効いた声をあげるのを聞いた。

愛想のいい、会えば挨拶を交わした東映の大部屋俳優っぽいオジサンの姿が見えないなと思ったら、戸に貼り紙がされ、ヤバそうなひとたちが数人、廊下で大声をあげ、各部屋に聞き込みをしていた。

当時は電話もなく、10円玉をたくさん持ってパン屋さんの前まで電話をしにいったものだ。そういえば、出無精な父が一度だけ訪ねてきたことがあった。中学だか高校だかの同窓会名簿をつくるという電話があってなぁ、というのを伝えにきた。いまになって申し訳ないと思うのは、ブアイソウに「そんなの放っておいたらいいよ」といって、お茶も出さずに返したことだ。父は汗をかいていた。部屋で話した記憶がない。

2時間ちかく電車を乗り継ぎ、住所を手かがりに迷いながらきたであろうことは容易に想像がついたはずだった。どうして、あの頃、あんなにもとんがって「家族」を拒絶していたのだろうかと不思議にすらなる。あの頃の父に追いついてみて、うずく。

一階と二階で、14部屋くらい。隣室の声は筒抜けで、向かいの二部屋を続きで借りていた子だくさんの一家以外は、住人の入れ替わりが激しく、数ヶ月で突然いなくなるというのもめずらしくなかった。

あの頃の楽しみといえば、バイトのお金が入った週末に近くの食堂で、ビーフカツを食べること。転居してからは一度もあの近くに足を運んだことがないので、どうなっているか知らないが、ごちそうだった。こんなにおいしいものがあるのかと思った。

そんな昔を思い出すきっかけが、『椿荘101号室』で、読んでいて気になるのが、年配でひとり暮らしの臼井さん。風貌とかが父に少し似ている。

パソコンのスクリーンセーバーに、犬小屋があって洗濯物がいっぱい干してある縁側で家族がいる写真を貼っている。「設定の仕方がわからない」から、ずっとそのままらしい。写真はここではない。子供や奥さんも、ハナシの中には出てこない。臼井さんは穏やかで淡々として、口数すくない。自然と彼の部屋は、住人たちのリビングになっている。その臼井さん、謎めいていて、ぜんぜんギャンブラーに見えないが、麻雀の本を出すくらいの名人らしい。というのが、チラッと一コマでネタあかしされているのがいい。

 椿荘101号室(2) (エデンコミックス) (マッグガーデンコミックス EDENシリーズ)

同じウラモトユウコの短編集『かばんとりどり』(徳間書店)も面白い。女のひとの鞄の中のものをめぐるハナシで、ぴりっとした毒気というか批評眼(カゴを下げた赤頭巾ちゃんのような女の子が、イケメンをハントしておそるべきところに送り込むハナシとか)があるのがわかる。でもって、一箇所だけ赤いマークを白黒の本の中にいれてみせたりしている遊び心がうれしい。プチぜいたく。

 

 

 

かばんとりどり (ゼノンコミックス)

かばんとりどり (ゼノンコミックス)

 

 

 

彼女のカーブ (F COMICS)

彼女のカーブ (F COMICS)

 

 

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/