わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

これ、少女向けコミックなのに、喪服率が高い。

   本日発売の「週刊現代」の書評欄「人生最高の10冊」のインタビューで、藤田宣永さんを取材させてもらっています。

 軽井沢のご自宅の書斎におじゃまさせてもらいましたが、書棚で眺望のいいはずのせっかくの窓を壊し地下室のよう。「これが落ち着くんだよ」というのから始まり、吉行淳之介からチャンドラー論、ベケット三島由紀夫…。「なんで俺がこんなにおしゃべりになったのか」まで、ほぼノンストップで読書の履歴を語ってもらいました。当然、取れダカははるかに超えてしまった(笑)。

 三島が言わんとしたことの俺なりの翻訳とか原稿にできなかった「惜しい話」がいっぱいでしたが、なにより印象に残ったのは、高校で福井から単身上京、新聞の勧誘員に言われるまま次々と契約したという逸話。なんで俺はここでこんなハナシしてんだろうとお思いだったのでしょうが、「だって当時は怖くてさぁ」というのが、チャーミングでした。

 ワタシの収穫は、立原正秋の昔の短編を読めたこと。

 

 【わにわに書庫】

海街diary吉田秋生小学館)から、

 

黒い服がそろう場面のたび鼻腔にツンとくる。

 

海街diary(うみまちダイアリー)6 四月になれば彼女は (フラワーコミックス)

 

   来年の夏には、是枝裕和監督で映画になるそうだ。

   観たいような、ないような。ビミョウ。綾瀬はるか長澤まさみ夏帆広瀬すず、が四姉妹というキャスト…。

   だれがいいとかでなくて、読み続けたものにはそれなりの配役イメージができあがっているからね。なんで是枝さんまで、コミックを映画にする世間の流れに加わらなくとも……と思わなくもない。ただ、やるなら、ずっと「家族のこと」をテーマにしてきた是枝さんが適任というか、ほかに考えられないけど。

 ま、それはともかく、母のあと、父を看取り、13歳にして身寄りをなくした中学生の「すず」が、ひとまわりもトシの離れた三姉妹の香田家(長女の幸(愛称シャチネエ)30過ぎ)にひきとられてから早2年? 才能を買われ特待生として新設の女子サッカー部のスカウト話が、という展開。香田家を離れ、寮住まいを選ぶかどうか。すずもそういう年頃になったというのが最新刊、第6巻。ボーイフレンドがヤキモキする、青春物語っぽくなってきた。

 

 いい機会なので、1巻から読み直してみた。

   当初の画は『BANANA FISH』のシャープな顔立ち色が強い。だんだん、シリアスな間をおとすコミカルな絵がはさまって、まったり柔らかくなってくる。

   だから、巻頭でいきなし喪服で、相続だ遺産だとかいう話が出てくると驚かされる。

   子が死亡している場合には孫が相続するとか、子供がいない場合はきょうだいが相続することになるけど、そうさせたくないと思ったら……みたいなそっち方面の知識が詳しい。5巻の93頁に、相続の本を、信用金庫に勤める次姉が読んでいるシーンがチラッとあったりするけど、流れで取材したってことにしても、どこにでも転がっていそうなゴタゴタのフンイキがリアルで、それをちょっとテンションが上がるたびにユーモラスにも描いていたりするのは体験者なのかなぁ……。

   相続のお金の話というと、どろどろしがちだけど、というかウチなんかモロそうだったし、だからここで語られる、すずにまつわるハナシは、浅田次郎の小説を読むようで、着地に胸の中がざわざわあつくなる。

   1巻から、父のガンの告知を受けてから、ひとりで思いをためていた13歳のすずの気持ちがよく描けていて、これは文学そのもの。それが理解できて、すずに自分を重ねて見てしまう「シャチ姉」とがセットになっている。

 

   それにしても、喪服が多い。

   6巻でも、すずの祖母の法事と相続をめぐって、祖父の弟妹が出てきて、田舎特有のいやーーーーなやりとりが勃発する。ホント、ひと目でイヤなキャラクター(金目でしょう、とか、都議会のセクハラ発言なんかメじゃないほどの発言続々のジジババで、欲が皺シワの1本1本に出ている)の登場で、もめるもめる。それを詳細に描きながら、これがなんともユカイなマンガにしている。才能だなぁ。

 

   そういえば第1巻の始まりも、すずの父親(他の三姉妹にとっても実父で、すずはその父親が愛人と家出したのちに生まれた、つまり母が異なる末娘)が亡くなった葬式からだった。

   三姉妹にとっては音信不通のままだった父は、すずの母が他界した後さらにべつの女性と再婚していたために、継母の家の事情も絡んでエラく複雑で、三姉妹の長女「幸」が、すずが継母から邪険にされるだろうことを予見して、うちにおいで「あたしたちといっしょに暮らさない?」と呼びかけたのが、四人姉妹となるきっかけなのだが、遺産や子供をどうするかでヒソヒソ親戚がギロンする場面が聴こえてきたりする。連載は少女コミック誌だけど、いまの10代は、こういうの現実をまんま理解するほどオトナなんだなぁ。そらぁ、しんどいわ。

 

    葬儀といえば、『死者を弔うということ 世界各地に葬送のかたちを訪ねる』(サラ・マレー著、椰野みさと訳)草思社、について、「という本の話」のコラムで書きました。

   世界を廻れば、土葬と火葬、ミイラにしたり、ポップアートのような棺桶職人あり(面白い!!)、工場みたいな火葬場あり、とその土地土地でホントいろいろ。日本のお坊さんの葬式が外から見たら、いかに変わった独特のものかというのがわかります。

http://www.norththai.jp/

 

 

女系の総督

女系の総督

 

 

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

 

 

 

 

死者を弔うということ: 世界の各地に葬送のかたちを訪ねる

死者を弔うということ: 世界の各地に葬送のかたちを訪ねる

 

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/