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わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

変わり者のようで、すんごく基本に忠実にやってきたひとのハナシ。

あしたから出版社 (就職しないで生きるには21)

きょう発売の「週刊朝日」の「週刊図書館・書いたひと」で、夏葉社の島田潤一郎さんのインタビュー記事が載りました。『あしたから出版社』(晶文社)のひとです。

 

「就職しないで生きるには」シリーズの1冊で、そうそう、ずっと昔、早川義夫さんが『ぼくは本屋のおやじさん』を読んだのは、ワタシがまだ阿倍野の本屋さんで働いたころです。

猫がレジの背後の部屋にいる、そんな町の本屋さんの身近さにワクワクしたのをよく覚えています。早川さんが、「伝説のジャックス」のひとだというのをあとから知ったように記憶しています。

そういえば「週刊朝日」の同じ欄の取材で、早川さんに念願かない、何年か前にお会いしたことがあります。出版を兼ねた音楽会社で、90分くらい話を聞き終えて、外の信号のところでカメラマンさんと話していると、「喫茶店でもうすこし話ししませんか。きょうは楽しかったから」と誘われ、2時間くらい話を聞いたのですよね。

取材した本にも書いてあったけど、都内に念願の隠れ処をもったところで、これから若い娘をナンパするんだぁ、奥さん公認なんだぁ、とコドモのようにはしゃいでおられた。その顔つきからは想像もつかないのが、地獄の底までも引きずり込まれそうな唄声で。まるでマッチしないのが、好きというか妙に印象に残っています。

早川さんの本の中に、HONZIさんという女性のバイオリニストとツアーで共演されている話が出てくるんですが、がんで頭に帽子をかぶっていたその彼女のことが気になり、調べたら以前、佐渡山豊さんのライブで力強いバイオリンとコーラスをされていたのが印象に残っていたひとで、その彼女がすでに亡くなられたというのを知って、どよーんとしばらくしちゃったんですよね。

早くにいっちゃうひとがいると、なんでワタシはまだ生きているんやろうと思う。

 

そうそう、夏葉社の島田さんの話でした。30過ぎて、なんの予備知識もなく会社を始めてしまう、ちょっと無謀なひとですが、座礁させずに5年間続けてこられたのは、ひとえに彼の人柄あってのこと。あと、まじめなこと、当たり前な努力と。

本を読むとわかるんですが、出会うひとに一杯助けてもらっている。というか、助けたくなるのでしょうね。それはやはり、まじめだからにつきる。

台風とか震災とか事件とかのニュースを見ると、いいひとだろうとそうでなかろうと関係なしに犠牲になってしまう。不条理さを感じるわけですが、島田さんを間近に見て、話してみると、たとえ世の中がどうであれ、こつこつまじめにやんなきゃと思うわけです。

本には、彼が夏葉社を立ち上げるにいたる彼ならではの理由と、どのように1冊1冊を作っていったかが綴られている。記事には分量のかげんで書けなかったけど、インタビューで印象的だったのは、『本屋図鑑』という町の本屋さんを、北海道の離島から沖縄まで彼が取材した本についてのこと。

たまたま、利尻島の本屋さんから夏葉社に直接、注文の電話がかかってきて、受けた島田さん、出かけていくことになったとか。「本はもちろん置いてないです。でも、行ったら、ほんとうに来たんだねといってもらって」

そこは、ロケーションはちがうけど、1本の電話からワタシにとっては早川さんの本屋さんの光景が浮かんでくるかんじで、おもしろいなぁと思う。

大阪の本屋さんで昔働いていたからわかるんだけど、都内ならなんでもないことでも、遠方だと1冊の注文のために電話するというのは、薄利の中から長距離の通話料金ぶんが差し引かれていくわけで、それを承知で電話するというのはイキだなぁと思う。

「でも、だからって、わざわざ一軒の本屋さんを見にいくためだけに利尻まで行くって、島田さん、変わっていますよ」というと、島田さんは「そうですね」という。話している最中、しくりに額のあたりの汗を拭う。涙だったかもしれない。もしかすると。

その利尻の本屋さんとはさすがにその後の行き来はないものの、「こないだ郵パックでね、もずくが送られてきたんですよ」という。ちょっと外が湿っていたそうだ。「でも、気持ちがうれしいですよね」と。

『あしたから出版社』は、出版社を立ち上げるまでと、その実践の話が中心だが、ワタシがハマッタのは、出版社を起す前史、単なるフリーターだった彼が片思いしていた女性にふられ、やけになったのか、西アフリカにひとり旅をする。「行くから」と宣言しちゃった以上、行かざるを得なくなった。ぜんぜん行きたいわけでもなかったのに。

それで、いろいろアクシデントに見舞われるわけですが、そりゃ誰が見たって無謀な旅ですからね。

島田さんだなぁと思わせるのは、腹をこわして乗り合いタクシーを途中下車しちゃったときのこと。知らない、どこだかわからない村。日本人なんかこれからあとにも20年はぜったいやって来ないだろうというその村で偶然出遭った青年が、彼のことを心配したのか単なる好奇心からか、家に連れていき村のあちこちを紹介してまわり、夜中にバスがやってくるまで半日ほどガイドを務めたという。

「言葉はおたがい通じない。英語もダメ。でも、いるとなんとなくわかるんですよね。でも、なんであんなに親切にしてくれたんだろうか……」

 理由がわからないというのが、なんとも島田さんらしくて、いいなぁと思いました。

 

 

 

本屋図鑑

本屋図鑑

 

 

ぼくは本屋のおやじさん (ちくま文庫)

ぼくは本屋のおやじさん (ちくま文庫)

 

 

 

I LOVE HONZI

I LOVE HONZI

 

 

 思い出したから、きょうはHONZIさんのCDを聴きます。

😤いただいたコメントへのお返し→「エースコックのワンタンメン」は、ワンタンの皮が入っているだけで、肉とかの具は入っていません。子供のころ、すごい偏食で、当時は肉が食べられなかったので、その何も入っていないのが合っていたんでしょう。いまでも、ときおりお腹が思いだすチキンラーメンと双璧です。調べたら、同じように関西出身のひとで食べたくなったけど、東京には置いてないといっているひとがいて、そうかそうかと。

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/