わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

割引クーポンをだす妖怪ヒーローと、トイレに行けなかった「恐怖のミイラ」のこと

 

東京百鬼夜行 1 (バンチコミックス) 

 水木しげるが、鬼太郎をはじめとする妖怪漫画を描きはじめたころからすると、ずいぶん世の中も変わったものだと思ったのは、宮川さとしの『東京百鬼夜行①』(新潮社)を読んでのこと。

 シリアスタッチの『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(新潮社)と同時進行で、「月刊コミック@パンチ」に連載していた妖怪マンガだが、「OL妖怪 百目雅子」「唐傘妖怪 衣傘祥雄」「木綿妖怪 いったん」といった面々が主人公の日常マンガで、水木の漫画ではおどろおどろしい、彼らは人間に害をなす嫌われ者の存在して登場した。公害とかに象徴されるように、日本が経済大国になっていく過程で生じた矛盾、膿のようなものをあらわすものでもあった。

   同じ妖怪でありながら、鬼太郎は人間に味方し「悪い妖怪」を退治する。「ウルトラマン」もそうだが、異界出身の正義のヒーローだった。のちに一律の「正義」の代弁に疑問を抱きはじめはするものの、正義と悪の二項対立の世界にあったのが「鬼太郎の世界」だった。

 それから半世紀を経て、宮川が描く妖怪マンガは、見事に「人間社会」に溶け込んでしまっている。通勤電車にデブで全身に目のある女がいても、だれも目もくれない。“一本脚の唐傘”のオバケである「衣傘祥雄」は、プロ野球の四番打者として活躍。野球帽は被っているものの、彼の外見は、どうみても一つ目の番傘である。驚かない、ということが、驚きなのだが。

 衣傘は、スポーツ洋品店の店員からバカにされる。それは彼が妖怪だからではなくて、もっとべつの理由で、小さなことをくよくよする性格に由来する。一本足だから、スパイクは片足で足りるのだが、片方だけを販売してくれないのは損だなぁと「割引クーポン」を差し出しながら、うじうじしているからで、決して妖怪ゆえに仲間はずれにされるようなことはない。そこが、鬼太郎の妖怪たちとは大きくことなるところだ。

 つまり彼ら彼女らの悩みはすでに「妖怪であること」にはない。「差別」とか「偏見」もない。「妖怪人間ベム」たちが、早く人間になりたい!と声を発したような切迫感もない。むしろ、 ポジティブに人間の合コンに加わるなどしてモテるためにどうすればいいか、人間同様、それ以上にささいなことに気をもんでいたりする。

 俯瞰すると、おいおい、悩むのはそんな小さなことではなくて、妖怪そのものの存在にかかわることのほうだろうと思うのだが、そうなっていないところが、いい。

   一反木綿の妖怪「いったん」は、ファブリーズを身体にしゅしゅっとする、ユルキャラで、友人たち(人間の若者)とドライブに行く間、ひとの話に割り込んでは、ぜんぶジブンの話にもっていくものだから「もういいってば!」と頭を女子から叩かれたりするものの、仲間からはじきだされるわけではない。

「百目の妖怪」百目雅子にしても、すべての目にコンタクトをいれ女子会に参加して、ジミキャラだったのだが、お笑いタレントのようにボケ、ヘンシンしてみたり。いたって、人間っぽい。というか、人間ならありふれてすぎていて話題にもならないだろうが、妖怪が人間化したら、という発想があってこそ。

 ひとに「くよくよしないで」という説教たれるのは簡単だが、言われたからといって直せるものでもないのがネガティブな性格やコンプレックスというもので、こういうマンガを読むと、根本解決はともかく、気持ちはほぐれるものだ。

   妖怪のふり見て、わがふり直そう、てことか。

   妖怪も時代の産物ということでは、これもそうだろう。

 

恐怖のミイラ 4巻セット [DVD]

 △ミイラといえば、包帯グルグルですが、

     意外とそういうのはシーンは少ない。

 

「恐怖のミイラ」というテレビ映画を、近所のツタヤで発見しました。

 こどもの頃、夕方にやっていた30分番組で、uuuuu、uuu-って陰鬱なスキャツトというか効果音とともに、ゆっくり、片足をきひずりながら男の影が歩いてくる。通りを歩いて女性が、見上げ、悲鳴、バタンと倒れこむ。そんなオープニングに震え上がったものです。

 

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 △夜更けに現れるミイラさん。

 

 当時、テレビを観終わってからソロバン塾に行かないといけないのですが、夕闇のわずか5分くらいの距離なのにもう怖くてこわくて、縮みあがっていました。

 で、びっくり。

 あらま、ぜんぜん、まったく恐くない。なにこれ。

 どこがあんなにトラウマになりかねないくらい、ビビッたのか。

 まあ、こっちが大人になったというのはあるにしても当時は子どもたちの間で、すごく「恐い」と話題になったものです。ただ、ひとまわりトシの離れた姉とかにいうと、「ミイラが恐いの」ハナで笑われていましたが。

 

 音楽そのものはいまでもブキミなんですが、見返すとツッコミどころが満載です。

 物語そのものは、4千年前のエジプトのミイラを蘇生させる研究をひそかに続けていた博士たちが、遂にその日をむかえる。そして。ミイラは博士を撲殺して逃亡、街をふらふらし、次々、殺人を重ね、警察が追跡するというもの。

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 △歯並びの悪いミイラさんの数少ないアップ。

 

 ツッコミ①……ミイラ研究の第一人者といわれる大学教授が、ミイラをエジプトから持ち帰ったのが事件の発端ですが、「エジプト旅行の土産に持ち帰った」という証言が出てきます。

 はて。「お土産?」「発掘じゃなく、観光?」。

 正規の手続きを得て、ミイラは日本に運び込まれたわけではないらしい。

   ピラミッドの盗掘が多かったといわれますが、旅行のついでにミイラを持ち帰るなんて。そんなカンタンにできたんでしょうか。教授、ダイジョウブなんでしょうか?

 

   ツッコミ②……大学教授にしては、自宅の書斎に閉じこもって研究を続けているというもね、どうなんでしょう。

 大きなお屋敷ではあるんですが。でも、大学には行かずに一年ちかく、薬品研究に没頭しているとか。そもそもミイラ研究とかいうから、専門は考古学とかなのに、薬品開発というのも……。トンデモ系?

 ともかく、助手がひとり住み込みでサポートしてきたそうです。

   完成した薬をミイラに注射したところ、無反応、がっくりしてしまいます。消沈した博士をよそに、しかしそばにいた助手は、目をらんらんとさせ、

「ぼくはまだあきらめません、こうなったら、ぼくの方法で試してみます。成功すれば、ぼくの名前で研究発表します。いいですね」と宣言する。

 すこし説明しますと、博士は彼をパシリとしか見ていなくて、このすこし前に助手が、

「先生、共同研究者として私の名前も加えていただけますか?」と訊ねると、教授は憤慨するわけです。おまえでなくてもいくらでも代わりはいるんだ、と。

 よくあることというか、この教授、なんかいやなオッサンなわけですよ。

 歯軋りしていた助手は叛乱を起し、自分なりの手法で宣言どおり、再挑戦します。これがね、注射はダメたから、直接口から注ぎ入れるというもの。

 はぁ?

 みごとミイラは蘇生する。でも、薬そのものは同じで、死んだものの口に注ぎこめばいいって。もうコントです。

 しかし、よく出来ているなと感心した点もあります。

    蘇ったミイラが首の骨を折って殺してしまう、そういった血の出る場面は一切見せずに、前後のシーンだけでつないでいること。

 子ども向けの番組ということで配慮してあったのでしょうが、そのほうが妄想が働いてかえって恐いです。

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△ 恩師に謀叛を起こす助手さんです。

(つづく)

 

 

 

 

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/