物書きは背中で
本日売りの「週刊朝日」に、ルポライターの鈴木大介さんのインタビュー記事が掲載されました。『最貧困女子』(幻冬舎新書)の著者インタビューで、「書いたひと」というページです。
「貧困女子」のさらに下にいる女性たちの声を聞き、こういう現実があると伝える本です。新書ですが3冊分、いや5冊くらいの濃いルポルタージュです。
「ひと」の部分にフォーカスをあてた分、本の内容について言葉足らずに思えたので、ここで補足しようかと思いもしたけど、やめておきます。グランド内で書ききるのが仕事ですからね。軽く書けそうでもないし。女は食えなくなったらカラダを売ればいいからいいよな、とかいうひとがいますが、そんなに簡単じゃないということがわかるのと。生き残りに欠かせないのは、カネより「縁」だなと。
ひとつだけ、楽屋落ちを。
通常は、誌面にポートレイトの顔写真がつくのですが、今回は背中を向けた後姿。カメラマンの植田真紗美さんが工夫されて、いい背中越しの写真です。顔に目がいきがちですが、背中もそのひとなんですよね。というか、背中のほうが嘘のつきようがない。
鈴木さんは顔出しNGと決められていて、テレビとかの取材はすべて断っているとか。先日は大竹まことさんのラジオ番組にゲスト出演されていたけど、話しかたはとても丁寧です。
NGの理由は、アンダーグラウンドな世界を取材するので顔を伏せておきたいんだろうなぁと推測していましたが、「自分の顔が知られることで、取材を受けるひとに迷惑がかかる恐れがある」。そうか、そういうのもあるか。一緒のことのようだけど、ちょっとちがうんですね。
ルポライターを名乗って、「ジャーナリスト」を名乗りたくない。絶対いやだという。鈴木さんは身体をつかう現場派で、情報を束ねて論を口にするジャーナリストになりたくないという。
顔を出さない理由とつながっていて、骨太さを感じました。
「書いたひと」の欄で、半年くらいの間に顔を出したくないひとを取材したのは鈴木さんで二人目になりました。いっそ顔は出せない「背中の物書き」を集めたいですね。
きのう発売の「週刊現代」で、作家の森絵都さんのインタビューが載りました。「人生最高の10冊」の頁です。
絵本と童話が中心ですが、森さんオススメの中でいちばんワタシがはまったのは、『浜田廣介童話集』(ハルキ文庫)。こどものころになじみのある「泣いた赤おに」の作家さんです。
ほかにも、大人が読んでも面白いというか、大人になってから読んだほうがジーンとする話がいっぱいで、ヘンにいいオチになってないのがいいです。
おじいさんが壁に釘を打ちつけていると、裏にいたヤモリの背中を貫いてしまう。もがけどもどうにもならない「とうさんヤモリ」を、子供や妻たちが案じる、一見落語のようなハナシが、いいです。背中を釘が貫通しているのでから、そらぁ苦しい。でも、とうさんは子供たちを不安にさせちゃいけないと、身体をクルクル回転させてみる。「家族のあり方」をヤモリに教わるというか、作者の強いイシを感じます。童話だから、子供のものというのは間違いですね。