わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

駅から徒歩1分の場所にたどり着かない恐怖。

張り込み日記

 

 このごろ目的地にたどり着くのが難しくなかった。きのうも「駅を出てすぐ」の場所に20分もかかってしまった。帰りは駅まで1分とかからなかった。

 転記した地図どおりに駅を出て右に進んだ。スススッと。しかし、これが間違いだったらしい。ライブをやっている店らしきものは見当たらない。番地を確認すると、そのものがない。ぐるぐるする。

 交番を探しに駅に戻るものの、交番がない。しかも、肝心の店名も電話番号も書き漏らしていることに気づく。イベントの開始時間が迫ってきて、焦る。まいった。そういえば、数日前にもホテルニューオータニに行こうとして、たしか文藝春秋社の近くだったよなぁと麹町駅を降り、地図を片手に進んでいったものの、一向にらしき建物が見えてこない。小学生の下校の見守りをしているお母さんたちに聞くと、こっちじゃないですよといわれる。呆然。

 通りを挟んでまったく逆方向にどんどん歩いていたらしい。それも自信をもって「こっち」と思いこんでいた。しかも、なんとかホテルにたどり着きはするものの、待ち合わせのラウンジまで何度もひとに尋ねまくって、外国にいった気分。もうこりごりと思ったが、またこれだ。

 結局、もしやと思い駅を起点に左のほうにすこし進んだところに、店はあった。以前、都内の精神科の医院をめぐって採点するミシュランのような本を読んだときに、医者に対する辛口採点評価よりも著者が極端な方向音痴で、病院の予約時間の1時間前に最寄りの駅に降り立つことを繰り返していたのが印象深かった。心配性だなぁ、いくらなんでもそんなに早くに、と思っていたが、ジブンもそうなりつつあるようだ。まいった。

 準備ということでは、この日のイベントは、スーツアクター(戦隊モノとかのヒーローや悪役の着ぐるみの中に入っている俳優さんをいう)をやっていたひとたちのトークショーで、高橋さんというイメケンの男優さんがあがり症らしく、先輩に挨拶をする(「きょうはよろしくお願いします」という最初の一言)のを前日から何度も練習していたという話にそそられた。スタントもする仕事で、一歩間違えたら大怪我になりかねない。コドモ相手とバカにできない。体育会な独特のタテ社会らしいが、人とのかかわり方にちょっと惹かれる。ということでいま、スーツアクターのひとたちの取材をはじめてます。

 

   そのイベント取材の帰途、池袋のジュンク堂書店へ。ほとんどいったことのなかった最上階の芸術書売り場に登りました。

 浜田真理子さんの初のエッセイ本『胸の小箱』が出ているというので、とりあえず発売元の「本の雑誌社」のコーナーを探すものの見当たらず、女性エッセイやタレント本の棚にもなく、文芸書の新刊コーナーを見るもなく、備え付けの検索機で調べると、「9階・演奏者評論」だという。

 文芸が3階で、ふだんは5階止まり。エスカレーターだから楽ちんだはあるのだけど、なんかメンドウだなぁと思いつつも上ったものの、場所がわからない。プリントしたものを手に売り場のひとに訊ねると、検索機を操作して(プリントアウトしたばっかりの紙を渡したのだけど)、探しにいくので後ろをついていったら壁面に棚差しになっていた。出たばかりの新刊なんだけどなぁと、がっくり。

 ジュンク堂にはこういうクセがあるんだなぁ。浜田さんは歌手でピアニストだから、音楽のコーナーに並べてあるのは間違いではないし、なるほどではあるのだけど、いきなり棚差しはどうなのか。在庫3冊となっていたけど。

川上弘美さんのオビもこれじゃあな…☹ 

胸の小箱

胸の小箱

 

 

 でも、わざわざ登ったおかけで、掘り出し物の発見もあった。壁面に写真が展示されていた『渡部雄吉写真集 張り込み日記』(ナナロク社)。昭和33年に起きた、バラバラ殺人事件を捜査するふたりの刑事に密着した写真集だ。

 カメラマンが、捜査中の刑事を撮影するなんて、いまでは考えられないことだが、モノクロのその迫力に圧倒され迷わず衝動買いしてしまった。

 ほとんど写真だけ。見るものが、これはどういう場面なのか推理する必要があるものの、聞き込みをする様子がドキドキさせる。眼光がすごい。かと思えば、路地で子供相手に竹の玩具の操作を教えてやったりしている。説明のない写真に流れをつくり「構成」しているのは、ミステリー作家の乙一さんで、間に付された簡潔な文章とあとがきが緊迫感を付加させている。いまならマクドナルドや吉野家なんだろうか、「すいとん」(たぶん)の立ち食い露店に立ち寄ったりする場面の「昭和」のにおいというか、松本清張のタッチが感じられる。これと出会えたから、ヨシとしたい。

 

張り込み日記

張り込み日記

 

 

 おまけ👇

鬼海弘雄さんがスペインで写真展をされたときの様子がわかる。「カメラがないと恐くてひとに話しかけられない」というのが戦場カメラマンを連想させます。

「hiroh kikai」の検索結果 - Yahoo!検索(動画)

http://video.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&p=hiroh+kikai

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/