わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

「はじまりへの旅」に、『夜の谷を行く』を重ねてみた。

hajimari-tabi.jp 時間があいたので、マット・ロス監督の「はじまりへの旅」という映画を観た。予備知識なしだったけど、すんごく濃い映画だった。 アメリカ北西部の森深くに暮らす、子沢山の一家の物語で、父親のベン(ヴィゴ・モーテンセン)は、1960年代…

藤田宜永『大雪物語』と、“24時間365日電話受付中”の葬儀屋さん

藤田宜永の『大雪物語』は、記録的な降雪で交通が遮断。「陸の孤島」となったK町を舞台にした全6話のオムニバス短編集。雪に閉ざされたリゾート地というと、ジャック・ニコルソン主演の「シャイニング」が思い浮かぶが、こちらは閉ざされた狂気でなく非常…

『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生を読む

お蔵入りした書評 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 大崎善生(角川書店) 著者は『聖の青春』などで知られる小説家で、07年に起きた拉致強盗殺人事件のノンフィクションだ。 犯人たちと被害者には何の接点もなく、男たちは「闇の職業安定所」と呼ばれる…

今年読んだ「弔い」の本、8冊

2016、今年読んだ本の中で、「弔い」をテーマにしていて印象に残った、8冊。 『煙が目にしみる 火葬場が教えてくれたこと』ケイトリン・ドーティ 池田真紀子・訳(国書刊行会) 葬儀会社に就職し「火葬炉」の担当になった若い女性の職場体験記。米国は土葬だ…

津村記久子『浮遊霊ブラジル』の中に出てくる、「オモ族」の写真集を見る男の子の話が面白い。

一日のご褒美に「オモ族」の写真集を見る男の子の話が面白い。 津村記久子『浮遊霊ブラジル』(文藝春秋)津村記久子の書く小説といえば職場小説の印象があるのが、最新刊の『浮遊霊ブラジル』は、死んじゃったお爺さんが、生前に行きたかった海外旅行を幽霊に…

映画「淵に立つ」(深田晃司監督)のあるキャラクターについて考えてみた

映画「淵に立つ」(深田晃司監督)を観て… 映画『淵に立つ』公式サイト ※映画のネタバレを含んでいます 日が経つにつれ、観終わった直後の違和感はだんだんと薄れ、浅野忠信演じるあの男は、観た人たちのコメントにあるように「得体の知れないモンスター」だっ…

若い女性が、火葬場で働いた体験記『煙が目にしみる』が面白い。

「食人族」というと何とも恐ろしい。私たちとは異なる世界に生きている蛮族と考えがちだし、この本を読むまではそうだった。60年生きてきて、知ってはじめて視界がひらけたというと少々大げさだけど、いまはそんな感じだ。『煙が目にしみる 火葬場が教えてく…

売られていったアカと、名もないウチのアンドロイドたちのハナシ

最近読んだ本で、印象に濃いのは、写真家の鬼海弘雄さんの『靴底の減りかた』(筑摩書房)という随想集に、バングラデシュの村で目にした光景を綴った一文だ。 朝、露店の男がひとりでやっている肉屋の前を通り過ぎようとすると、向こうから山羊を引いた親子が…

特別ではない一家だけど、「五島のトラさん」は、

www.ktn.co.jp 『五島のトラさん』は、長崎県、五島列島の島で暮らす一家九人のドキュメンタリーだ。 主人公のトラさんは、「トラヤ」という五島うどんの製麺所を営む犬塚虎夫さん。ひとつ年下の妻、長男・拓郎、長女・こころ、はなえ、さくら、竜之助、末っ…

『伯爵夫人』の著者インタビューをして思ったこと。

「週刊現代」誌の取材で、『伯爵夫人』(新潮社)で三島由紀夫賞を受賞した蓮實重彦さんを取材したのは、ひと月ほど前のこと。取材は編集者からの、問い合わせの電話があったとき、作品は未読だったが受賞の記者会見が話題になっていたのは知っていた。 「答え…

付き人だったひとが語る、ドキュメンタリー映画「健さん」

respect-film.co.jp 『健さん』(日比遊一監督)というドキュメンタリーがこの夏ロードショー公開される。 俳優・高倉健について、マイケル・ダグラス、マーティン・スコセッシ、山田洋次、降旗康男といった映画監督や俳優をはじめ、20人以上の人たちが語る声…

独身女が年収250万円で家を買うのは…池辺葵の『プリンセスメゾン』から

写真家のHさんから、家賃がいくらというのは外してくださいと言われ、まあ、そうかと思ってゲラから削った。 けっこういい暮らしをしているじゃないか。そう見られかねない。実際は、大黒柱である妻が体調を崩し、毎月の家賃の算段に頭を悩ましている。いつ…

『三の隣は五号室』に残された3センチのゴムホースのこととか

ぶーん、ぶーん 我慢できずエアコンのスイッチを入れたら、壁に据え付けられている室内機が身震いしているではないか。リモコンを操作し、静穏モードにするとさらに振動はひどくなる。 バタバタバタ ヘリコプターが旋回しているような音で、翌日、大家さんに…

「205号室」の六原豊子さんが残していった雑巾のこととか

長嶋有の『三の隣は五号室』(中央公論新社)は、築50年の木造モルタルの二階建てアパートに居住した13組の住人たちの物語。のようで、じつは、彼らの暮らしを観つづけたアパートそのものが主人公のように思えてしまう長編小説だ。 1966年から、2016年まで。…

 背中を演じる人たちの漫画『UNDERGROUN‘DOGS アンダーグラウン・ドッグス』(黒丸)

【わにわに ウラカタ本】『UNDERGROUN‘DOGS アンダーグラウン・ドッグス』黒丸(小学館ビッグコミックス) スタントマンといえば、危険なシーンの代役をする。高いところから飛び降りるとか、クルマに撥ねあげられるとか。この前までワタシもそういう場面を…

真っ二つに破損した眼鏡のフレームはボンドでくっつくか?

寝ぼけて、眼鏡を踏んづけ、パキンと真っ二つに。 あーーーーーー、 もちろん落ち込みました。 ☝何度も、くっっけてみたものの、もちろん元に戻るわけもなく、 ひどい近視で、眼鏡がないと生活できないため、万一のときの眼鏡をつくっていたのでなんとかしの…

嫌でしかたない。だからこそ、面白くなるもの。

『あなたを選んでくれるもの』ミランダ・ジュライ 岸本佐和子訳 ブリジッド・サイファー写真 新潮社 ラジオのゲストで阿川佐和子さんが話している。 インタビューの名手として知られるひとだけど、「どなたか会いたいひとはいますか?」と聞かれるたび「だれ…

37人の男前なインタビュー本。

37人のプロたちのインタビュー本。本書が面白いのは、裏方に見えるその世界の中にもさらに「表」と「裏」が存在することを教えてくれる。作業のダンドリと関係して、大工や左官は花形の表。いっぽう裏にあたるのは、家やビルが完成したときには外から見えな…

スタントマンの世界を描いた青春漫画『UNDERGROUN'DOGS』。

黒丸『UNDERGROUN'DOGS (アンダーグラウン・ドッグス)2』(ビッグコミックスピリッツ) 公園でダンスの練習をしている少女たち。あの中で、キミならどの女の子の電話場号を知りたいか? 黒眼鏡の男が、リュックを背負った若者を呼びとめ、尋ねる。「なんで…

漱石と床屋。

前話『東海道中床屋ざめき』からの、床屋つながり 夏目漱石の『草枕』に、山間の村の理髪店に、旅の男がふらりと入るくだりがある。床屋「髪結床」と表してある。 話し好きな親方で、どこからやって来たのかと訊かれ、東京だというと、「私(わっち)も江戸…

お盆に「床屋ぞめき」

『東海道中床屋ぞめき』林朋彦(風人社)。 昭和のなごりのする散髪屋(美容院を含む)さんの写真集だ。 「東海道」を日本橋から京都まで下る途中に見つけた「床屋さん」の店内と外観を写している。じつにシンプル。掲載されているのは、86軒92枚。キャプション…

「わたし、役者じゃないんです」というスタントマンと、「揺れを感じさないのも仕事」と語る霊柩車の運転手さん。

撮影©山本倫子 日刊SPA!に、「なかのひと」シリーズの続編インタビューが掲載されました。今回は、女性スタントマンの日野さんと、スタント出身のアクション監督の大内貴仁さん。 http://nikkan-spa.jp/897053 http://nikkan-spa.jp/897040 日野由佳さんは…

「生キャラ」りんご飴マンさんに会い、思い出したエガちゃんのこと。

津軽三味線とのコラボ。昔、バンド活動をやっていたとか。 📖「週刊朝日(7/24号)」デキコトロジー【ゆるくないキャラ図鑑】で、「りんご飴マンさん(青森県移住・生キャラ)」の記事が掲載されました。 以下は、掲載されたのとちがうバージョンで、「これイン…

20年の間、引退しない男の「顔」を撮り続けたドキュメンタリー

ひとりの人物にカメラを向け、インタビューを重ねてきた映画を観た。それも20年間だ。 カメラは、二十歳そこそこ、イキのいい男を正面から撮っていく。監督がインタビュアーで、たまに公園のベンチに並んで腰掛けたりして、聞き手の顔が映りはするものの、ほ…

指先の感触

全盲で耳も聴こえない妻と、五十をこえてから結婚した夫のふたりが、田舎の村で静かに生活するドキュメンタリーを深夜にやっていた。何度か再放送していたらしい。 妻が視力を失ったのは、四十代で、聴覚は幼いころだという。 ふたりの会話は、夫が妻の手の…

「友情」と「地獄の特訓」と33年前の山の事件

『友だちリクエストの返事が来ない午後』小田嶋隆(太田出版)を読みながら… 最近耳にしなくなったものの一つに「地獄の特訓」がある。新入社員や幹部候補を送り込み「社畜」(©佐高信)に育成してもらおうというもの。 教官が怒鳴りあげ、全員で社訓などを…

娘に遠慮してしまう父にやきもきするのが、ベストシーン。

『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』最相葉月(岩波書店) ナグネとは旅人という意味らしい。よく練られた構成。映画を見るみたいだ。 日本から中国へ帰郷した娘が、土産に持参した釣竿を父親に渡す際、 「あまり目立つ場所で使っちゃだめよ」 というのだが、最初…

30は迷うよね。女性スーツアクターだった人見早苗さんのインタビュー。

30になろうとするときは、どうしていたのか。 20のときはよく覚えていて、失敗ばかりしていて、もう思い出したくもないんだけど。 勤めていた書店をやめて、ぜんぜんちがう業種に転職しようとしたけど、間際になって「あ、おれ、電話するの苦手だな」(何を…

「おいで この心に」と辻内智貴が呼びかける。

『僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ』という辻内智貴さんの文庫の解説を書かせてもらったときから、彼のCD「ZeRo」をよく聴いている。気分がローなときには、すこし元気になれる。 ちゃんと歌詞が聴き取れるということでは、昭和歌謡っぽいとい…

「ショッカー」見分けられますか?

「なかのひと」インタビューの最新版が、掲載になりました。 特撮「戦隊」番組で変身後に、ヒーローを演じるスーツアクターさん。 なかでも、数少ない女性アクターだった人見早苗さんのインタビュールポで、3週連載の「前編」になります。 「個性」てなんだ…

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/