『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』大崎善生を読む
お蔵入りした書評
『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』
著者は『聖の青春』などで知られる小説家で、07年に起きた拉致強盗殺人事件のノンフィクションだ。
犯人たちと被害者には何の接点もなく、男たちは「闇の職業安定所」と呼ばれるインターネットの闇サイトで知り合い、三日後には事件を起こしている。
全13章中、2章分を割き、共犯者四人の三日間を再現。虚勢を張り合う男たちの無軌道ぶり、残虐性に慄然とさせられる。
しかし、よくある事件ものと異なるのは、男たちの生育環境や出生を遡ることはせず、本書の大半を31歳にして前途を断ち切られた女性にあてている。「生まれ変わったら、空とかになりたい」と友人に明るく語っていた、磯谷利恵さんの一生だ。
残されたブログや母親らの回想などから母子家庭に育ち、進路に悩み、囲碁を通して出会った男性に心を弾ませる。「平凡な日々」を丁寧に映しだすことで、失われた存在を印象づけている。