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わにわに

朝山実が、読んだ本のことなど

藤田宜永『大雪物語』と、“24時間365日電話受付中”の葬儀屋さん

 

大雪物語

 

藤田宜永の『大雪物語』は、記録的な降雪で交通が遮断。「陸の孤島」となったK町を舞台にした全6話のオムニバス短編集。雪に閉ざされたリゾート地というと、ジャック・ニコルソン主演の「シャイニング」が思い浮かぶが、こちらは閉ざされた狂気でなく非常事態がもたらす一期一会の人間関係を描きだしている。 

 

 警察に追われたひったくりの青年と、別荘にひとり暮らしの老女の第一話「転落」で始まり、災害派遣された自衛隊員と失踪していた姉との再会の「わだかまり」など、ミステリー作家ならではの緊張の糸を張りめぐらしながらも、市井の人たちの暮らしや思いを語っていく。なかでもいいのは、第二話の「墓堀り」

 

 消息の知れなかった実母の遺体を引き取った帰りに立ち往生してしまった、遺体搬送車の運転手と依頼人の女性の数日間を描いている。運転手は仕事柄、当初は無口を通していた。

 

〈忠志の勤め先は遺体搬送を専門にしている会社で、彼はそこの運転手である。
 霊柩車の運転手同様、遺体搬送中に、ドライバーがラジオを点けたり、同乗者に話しかけたりは絶対しない。できるだけ存在を消し、搬送車の一部となって運転するのが、もっとも正しい在り方である。〉

 

 この一文を読んで、父親の葬儀のときにお世話になった運転手さんの顔が思い浮かんだ。
 主人公は転職者で、もともとは料理人、それも話し好きな男だったらしい。しかし、転職してからは寡黙な仕事ぶりで、大雪で何日も立ち往生するようなことがなかったら依頼人の女性とも互いの事情を打ち明けることもなかっただろう。そんな二人が会話するまでの流れが自然でとてもいい。


 印象深いのは、クルマは停まったままで後ろの棺の遺体の腐敗が進行する。やむなく棺をクルマから下し、雪の中に埋めようとする。後ろのベンツに乗っていた女性が見とがめ、自分たちは病院にかけつるところで縁起でもないからやめてくれと非難する。


 苦情を口にするベンツの女が、知り合いのあのひとに似ているなぁという具合で、いかにもありそうで、これは本職の葬儀屋さんにでも取材をしたのか。でもなければ、作家というものはよくもこういう場面を考えたりすものだなぁと感心した。どこか昔読んだ、ボブ・グリーンやピート・ハミルを思い出した。

 

 さて。ここからは先日、葬儀屋を営んでいる知人に聞いた話。24時間365日いつでも電話受付しています」が昨今その業界の常態らしい。

 

 知人は、会社の携帯電話をいつでも受けられるように、というか、受け損じがないように寝室はもちろん風呂場にも持っていく。「だから眠っていても寝た気にならないんですよ」という。

 

 そして、まさか、そんな時間にという深夜の二時、三時、明け方だろうがお構いなく、お客さんから電話がかかってくる。「こんな時間にすみませんが…」と謝るひともいれば、いきなり要件を口にするひともいて、ひとさまざまらしい。

 

 どうして、そんな深夜の時間帯に電話がかかってくるのか? 朝方になってから電話するのではいけないのだろうか?

 

「そう思うでしょう」と葬儀屋の知人が笑い顔になった。彼の名前は仮にシマさんとしておきます。

 

「病院から言われるんですよ。『もう葬儀屋さんはお決まりですか?』って。息をひきとったばっかりなのに」

 

 ──それは、ベッドを空けなけばいけないからとか。

 

「それもあるんでしょうね。もうひとつの理由は、霊安室のある病院だとそこに運ばれるんですが、ないところ、とくに大部屋だと、亡くなったひとのご遺体があるというのはね、病院として、ほかの患者さんたちのことを考えての配慮もあるんでしょうけど」

 

 ──じゃ、個室だと?

 

「個室であっても、すぐに葬儀屋さんに連絡して、運びだしてくださいとせっつかれる。一刻も早くみたに言われるものだから、みなさん焦って電話してこられるんですよね。掛けてすぐにつながらなかったら、べつのことに電話をされて」

 

 だから、仕事柄どうしてもケータイ電話が手放せないのだという。

 

 ──ヘンな話だなぁ。

 

「でもね。昔は昔で、ひどかったんですよ」

 

 ──というと?

 

「だいたい、(ご遺族の方に)いちばんに声をかけた葬儀屋がご遺体の搬送から葬儀まで請け負うことになるので、そのために社員を病院に常駐させ、泊まり込みというのも珍しくはなかった」

 

 それから比べたら、自宅で寝られるというのはまだマシだという。

 

「こないだウチも、電話帳みたいなので、○○市が発行するタウンガイドに広告を出したんですよ。週刊誌サイズで市内の全戸に配布するんですけど、カラー1ページいくらだと思います」

 

 ──うーん、20万とか30万とか?

 

「……そうですよね。それぐらいに思いますよね」

 

 ──正解は?

 

100万円。もうひとつ、四分の一サイズが20万円。ふたつで120万円だったんですよ」

 

 ──うわっ、タカー!!

 

「ですよね」シマさんも笑い返した。でも、未知数ながら広告の結果に期待するところは大きいらしい。

 

 ──そういう広告を出して、もとはとれるの?

 

 質問すると、効果は未知数ながら頑張らねばならない事情があるらしい。この数年で近隣の葬儀会館は数倍に増え、競争が激化。団塊世代の葬儀が今後十年で増加する、需要を見越して新規参入や既存大手の拡張もあり、葬儀業界は戦国時代の様相にあり、シマさんがケータイを風呂場にまで持ち込むのもそうした事情が背景にはあるらしい。

 

「一般のひとは必要がなけば目にとまらないでしょうけど、葬儀社の広告を見てもらったら、どこも"24時間365日電話対応"を掲げていますから」

 

 ──葬儀会社ってブラック企業だなぁ。


 
冗談めかして言うと、「ですね」とシマさん。社員に「
24時間受付の電話」をもたせるのは忍びないらしく、社長自らがブラックな状態にあるという。

 

インタビューライター・朝山実 近著 『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社) 『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店) 『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP社)etc. 不定期連載 「日刊チェンマイ新聞」"朝山実の、という本の話" http://www.norththai.jp/